繊細なデザインと輝きが魅力の「江戸切子」。
江戸時代から続く技術が生み出す、
日本の手仕事を象徴する伝統工芸です。
そんな名のしれた江戸切子ですが、
皆さんは作られる工程をご存知でしょうか?
ここでは、切子ができるまでの製造工程と、
繊細な手仕事に込められた職人の想いをご紹介します。
江戸切子の代表的な製造工程
1.割り出し(わりだし)
割り出し台と呼ばれる回転する台座にグラスをセットし、
カットの目安となる線をマーカーで入れます。
2 粗摺り(あらずり)
割出しに沿ってデザインの大枠となる太い線を、
回転する石の車輪「ダイヤモンドホイール」に押し当ててカット。
粗摺りの段階で用いるホイールは、
深く、速く模様を削ることができる
目の荒いものを使います。
3 三番掛け
粗摺りで使用したものより
細かい目のホイールに付け替え、同じ場所を再度カット。
カット面のザラつきを滑らかに整えます。
4 文様をカット
模様・特徴に応じてダイヤモンドホイールを付け替え、
伝統文様やオリジナルの図柄の細かな装飾を加えます。
5 磨き・完成
カットを終え、まだ表面の粗いグラスを、
「手磨き」または「酸磨き」で磨き上げます。
手磨きは、コルクやゴム、毛ブラシのホイールで、
カットをなぞるように磨きをかける伝統的な方法。
酸磨きは、薬品で表面を溶かし仕上げる技術で、
効率よく複数のグラスをまとめて磨くことができます。
この工程を経ることで、ようやく光を受け輝く切子が完成します。
Artisan Interview — 江戸切子ができるまで
さて、ここからは、
東京・亀戸で3代続く「根本硝子工芸」
2代目の根本達也さんにインタビュー。
日々、どのような想いや姿勢で
江戸切子と向き合っているのかを伺いました。
——江戸切子を美しく仕上げる中で、
もっとも大切にしていることは何ですか?
「最初から、全ての制作において妥協しないことです。
そして、次の行程が美しく仕上がるように、
一つ前の行程で手を抜かない。全てを疎かにしないことで、
最終的な仕上がりが違ってきます。
たとえば、最初に、グラス(生地)素材の中に気泡や鉄粉、
ブツ(ガラスを溶かすツボの破片)がないかなどを
チェックするのですが、妥協せずにチェックする。
割り出しでも、使うペンのペン先一つにも気を配る。
ペンは、使ううちにどうしても潰れて、線が太くなっていきます。
割り出しはカットする時のガイドなので、
線が太いと中心をとるのが難しくなります。
だから、潰れてきたと思ったら、新しくするんです」
——では、もっとも気を遣う制作行程は?
「全てです。繰り返しになりますが、
一つ前の工程が次の工程に影響するので、
目の前の仕事に集中しつつも次を考えながら、
一つひとつ丁寧に行っていきます。
職人として基本的なことですが、
最後まで気を遣うことが大事だと思いますね」
——では、加工でもっとも難しいのは?
「色が濃いグラス(生地)の加工でしょうか。
切子に使うグラスは底に向かって肉厚になっているのですが、
厚くなるほど色の被せも厚く濃くなります。
そうすると、割り出しで入れた線とグラスの向こう側にある
ダイヤモンドホイールの刃の位置が見えづらくなるんです。
切子は、グラスの内側から外側に入れた線を頼りにカットしていくので、
線や刃の位置が見えづらいということは、
中心を取ったり均等にカットしていくのも難しくなります。
だから、グラスの色が濃くなればなるほど、
カットには気を遣いますね。
黒色の江戸切子などは、
職人の技術や経験が問われる作品だと思いますよ」
——江戸切子職人として、喜びを感じるのはどんなときですか。
「うちの工房でいうと、
先代(初代)からのファンでいてくださるお客さまも多いのですが、
そういう目の肥えた方々から『先代と同じだね』
と声をかけていただくと、ほっとします。
磨きや難しい曲線など、先代が大事にしてきた物事を、
きちんと受け継ぐことができているんだなと」
——では最後に、江戸切子を通じて、
お客さまに伝えたいことを聞かせてください。
「お酒を飲むでもいい、飾って眺めるでもいい、
贈り物にするでもいい。
手に取ってくださる方にとって、
その江戸切子と共にある時間が一番いい状態なのであれば、
わたしたち、江戸切子の職人は本望です。
『ロックグラス』という名前だからって、
別にその通りに使わなくていいと思うんです。
つくり手が用途を決めるのではなく、
手にしたかたが自由に使ってくだされば、
それがわたしたちにとっても一番うれしいです」
* * *
いかがでしたか?
目の前のものが、どのようにつくられているのか。
また、どんな想いでつくられているのか。
垣間見るだけで、捉え方はずいぶん変わります。