光井威善ガラス展

9月14日(土)から、浅草合羽橋本店では
光井威善ガラス展」を開催。
本企画で並ぶのは光井さんの代表作《Silence》。
2022年開店当初、すぐに完売したグラス類に加え
今回はぐい呑と片口、花器も制作いただきました。
モノトーンとアクセントカラーのガラスが映し出す
影までもが美しい作品たちです。

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ここでは光井さんのインタビューをお届けします。
整頓された工房で、丁寧に質問にお答えくださる
光井さんのお話しと姿勢からは、作品にも通じる
静かな明るさと優しい強さが感じられました。

 

自分の中にある個性と余白

学生の頃はオブジェをつくっていたという光井さん。
オブジェ作品から器作品までの軌跡を尋ねました。

T:どんなオブジェを作られていたんでしょうか?

M:ボトルの胴体から目玉が飛び出ていたり、
妖怪のような顔がついていたり、
ガラスの表面に絵を描いたり要素が多いですね。
とにかく何か変わったことをしなければと意識して
足掻いていた感じですね。


T:今でも人と違うものを意識されたりしますか?

M
:今はもう意識していないですね。結果的に違って
いたら良いとは思うけれど、個性を追い求めていた時
よりも脱個性というか、むしろ諦めて自然体でいる

今の方がふわっと個性が出る気がします

T:生活の中で使われる器をつくる上で、つかい手の
声を聴いたり取り入れたりされるんでしょうか?

M:半分は聴きますね。自分の手元を離れるものなの
で、
他の人の考えが入る余白は持っていたいですね。

 

「色を感じたい」、色への想い

ガラスなのに柔らかい印象を与える《Silence》。
組み合わせた色が溶け合うグラデーションが魅力。
その光井さんの色彩感覚と選ぶ色について迫ります。

T:今回TSUCHI-YAから色の組み合わせをお願いして
サンプルをつくっていただいたんですが、その中で
こちらが想定したものと異なる色が送られてきて
「あれ?」ってなり、何度かやりとりがありました。
ご自身が色弱ということはすでに公にされていますが
私たちにはとても貴重な体験、経験となりました。
どう自分の色彩感覚と向き合ってこられましたか?

M:正解の色が何か自分には一生わからないからこそ
興味がありましたね。 色弱補正眼鏡を手に入れたとし
てもきっとそこで見えた色を信用しないと思います。

だから、何色にするかよりトーンを凄く意識します。
濃さとか薄さとかを気にかけてつくっていますね。

例えばクリスマスの赤と緑は補色で派手な組み合わせ
らしいけど、自分にとっては派手ではないんです。
赤という色は割と一目置かれる色かもしれないけど
僕にとっては一目置いていないし特別ではない。
だから、濃淡で色の組み合わせを選んでます。
自分が表現したいのはきっとモノトーンなので
「カラーでモノトーンをつくる」という感じですね。

濃密なディテールから生まれる静けさ

《Silence》シリーズは、繊細な削りによって
鮮やかな色から優しい色へと仕上げられていきます。
自ら吹いたガラスを削る一手間について伺いました。

T《Silence》完成までどんな模索がありましたか?

M:自分の心地よさを優先した結果生まれました。
色は使ってみたいと思っていましたが、ポップで
カラフルなガラスではなく、「静かだけど明るい」
みたいなものをつくりたいと考えていました。

T:色は使っても落ち着いた感じに
したかった?

Mそうですね、僕は人でも賑やかで明るい人より
静かで明るい人が好きなんです(笑)。だから
ガラスに色をつけたままでは何か違うなぁと。
色があってカラフルだけど静けさを表現したくて、
表面を削ってみようと思って試していくうちに
いい意味で色が打ち消されていき腑に落ちました。
だから、自ずとタイトルも決まりましたね。

T:この繊細な削りに至るまでの試行錯誤は?

M:表面を削るのはガラスのポピュラーな表現ですが
斜めとか点とか試す中、雨っぽくなったんですよね。
実は雨が好きなんですけど、それも影響したかも。
だからシンプルに縦に真っすぐがしっくりきました。

T:削り線の微妙な揺れは意図的なんでしょうか?

M:まっすぐ削ろうと思っても人の手だから絶対に
揺らぎますよね。僕はその揺れが好きで、なぜなら
あの線は機械には出せない人間ならではの線だから。


T:吹いている時と削る時、どちらが好きですか?

M吹きも夏はしんどくてやりたくないですけど、
やっぱり
溶けたガラスを触ってる時が好きですね。
正直、
削るのはしんどいです(笑)。《Silence》は
細い線の集積だからすごく手間がかかる。
もう無の境地で削ってます。

そして形へのこだわりへ

《Silence》では珍しい削り加工の無いクリアな片口。
お酒を入れると、影や色の見え方が変わります。
その薄く無駄のない形もシンプルで、ガラスらしい
柔らかさのある造形が魅力です。
最後に、光井さんの造形に対する思いも聞きました。

T:つい、その色や質感に注目してしまいますが、
形へはどのような拘りがありますか?

M:「自分の形」という個性はないかもしれません。
その作品が一番きれいに見える形を毎回出したいと
いうデザイナーのように考えた結果の形ですね。
《Silence》は色を複数使う分、できるだけシンプルに
端正に、緊張感を形に与えています。そうでないと
意図していないカラフルなものになってしまうので。

まだまだ掲載しきれない沢山のお話を伺いました。
どこかでぜひご紹介できればと思っております。

質問に淀みなく答えられる光井さんの言葉からも
作品がもつ完成度の高さが感じられる時間でした。
最終形になるまでに光井さんが辿ってきたプロセス
からは、自分らしさと向き合うことの大切さ、
ものづくりの大変さと楽しさを垣間見た気がします。

ぜひ店頭でお手に触れていただければ幸いです。

光井威善│Mitsui Takeyoshi
1987年広島県福山市生まれ。
2010年に倉敷芸術科学大学芸術学部工芸・デザイン学科、
2012年に同大学院の芸術研究科工芸専攻を卒業後、
富山ガラス工房に所属し、2016年に独立。
オーストラリアでの滞在制作を経て、
現在は富山にて制作活動を行っている。

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