Kirikoつくり手 Object Stories — 小林淑郎「未来」 2026年5月15日 ※この記事は2023年に室町硝子工芸に掲載された内容を再編集して投稿しております。江戸切子は、一つひとつ、職人の手により生み出されます。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品や展示、オーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどんな存在なのでしょう。 ここでは、そんな一点ものの“作品”に向き合う職人に質問。作品や、作品づくりへの想いを伺います。今回は、1908年創業の「小林硝子工芸所」3代目・小林淑郎(よしろう)さんです。 小林淑郎・作「未来」 淑郎さんは、1950年生まれの70歳。明治大学を卒業後、2代目である父・英夫さんに師事し、以来、江戸切子ひと筋です。その技術は江東区の無形文化財にも指定され、全体に緻密なカットを施した豪華な総柄に定評があります。 この「未来」は、径33cmに高さ19cmという、大きな鉢です。2020年8月に、日本橋三越で開催された息子の昂平(こうへい)さんとの二人展でも展示されました。 「江戸切子の基本文様である鱗文(うろこもん)を、大物に一度つくってみようと思いました」 「鱗文」は、直線を交差させる伝統文様「矢来(やらい)」を均等に連続して施します。「未来」では、透明な透きガラスの生地に施すことで、光や中身により落ちる影や突起への映り込みなどが変化。さまざまな表情がたのしめます。 淑郎さんは「今はもう(大きな作品は)つくれません。気力と体力がいります」と言いますが、そのストイックさは、職人の間でも評判。カットにかける時間も体力も、相当なものなはず。おいそれと新作への意気込みを語るのが難しいのも、無理はありません。 渾身の力と想いを込めた江戸切子は、見るものの心を揺さぶります。 Q & A ——江戸切子職人にとって“作品”をつくることは、特別な意味がありますか? 「酒杯やオールドグラスなどの小さなものばかり制作していると、技術の向上がありません。“大物”の制作技術は、その技術の何倍もの技量が必要です。できれば若いうちに“大物”をたくさんつくることが大切ではないでしょうか」 ——グラスやぐい呑みなど、手のひらに収まるものをつくるときと、気持ちや行程は違いますか? 「違います。やはり重さがあると、削るときに自由に取りまわせません。そこに技量の差が出ると思います」 ——“作品”を通して伝えたいこととは。 「“大物”はデザインの力量が問われます。また、花瓶のように重量があると、支えるだけ力が必要です。細かい文様の“大物”は、作業が2分くらいで一旦中断。2分休んで、また作業。その繰り返し。体力と時間がかかります」 ——「未来」で感じてもらいたいことを聞かせてください。 「ただ、じっくり見ていただければいいです。そして、いつかあれはいいものだったんだと気づいてくれれば、それで結構です」 小林淑郎 YOSHIRO KOBAYASHI1950年、東京都生まれ。1973年より「小林硝子工芸所」2代目である父の英夫に師事。1981年「日本伝統工芸新作展」にて初入選。以来、数々の賞を受賞し、江戸切子の認知や普及にも尽力する。現在は、4代目である息子の昂平(こうへい)氏と工房を切り盛りする。※この記事は2023年に執筆されたものです。終売している商品もございます。お取り扱いについてはお問い合わせください。
Kirikoつくり手 Object Stories — 小林昂平「潮流」 2026年5月15日 職人の手により生み出される江戸切子。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品や展示、オーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、手掛ける職人にとってどんな存在なのでしょう。 ここでは、そんな一点ものの“作品”に向き合う職人に質問。作品や、作品づくりへの想いを伺います。今回は、1908年創業の「江戸切子 小林」4代目の小林昂平(こうへい)さんです。小林昂平・作「潮流」 昂平さんは、父である3代目・淑郎さんとともに、江東区住吉の工房でガラスと向き合っています。江戸切子職人の厳しさを知る両親からは「『ほかの職業に就きなさい』と言われて育った」という昂平さんですが、大学時代に留学先のホストマザーから父の作品を称賛され、江戸切子の世界へ興味を持ちます。そして今や、若手の江戸切子職人の中でも注目と期待を集める一人。 大胆な曲線とモダンなデザインに定評のある、その作風。「潮流」は、径およそ27cmに高さ12cmの被切子鉢(きせきりこばち)で、第66回日本伝統工芸展の新人賞を受賞しました。 「この作品は『令和』がひとつのキーワード。令和元年に制作したものですが、新しい元号に変わり、時代の波にのまれることなく自分の表現を続けていきたいという気持ちを込めました。 上部に施した菊つなぎ紋様を、すりガラス状にすることでアレンジを加えています。ほかの部分は、細い線で荒波を表現しました。苦心したのは、細い線が無数に並ぶ波のカットを、フリーハンドで割り出ししていく作業。書いては消しての繰り返しで、想像以上に時間をとられました。上から見たときと横から見たときの、波のうねり具合を調整するのが難しかったです」 江戸切子は、見る場所や光のあたり方などで、さまざまな表情を見せます。大物となれば、なお一層豊かにたのしめますが、そのぶん難しさも増すのです。だからこそ、腕も鳴るというもの。大物には、江戸切子職人の、斬新なアイデアを具現化する高い技術と力が欠かせないのです。 Q & A ——江戸切子職人にとって“作品”をつくることは、特別な意味がありますか? 「普段は、主にグラスづくりをしているので、大きな作品をつくるのは特別な時間です。そもそも大きなガラス生地自体がとても貴重なので失敗は許されませんし、完成するまで地道につくるのでフルマラソンをしてるような気持ちです」 ——グラスやぐい呑みなど、手のひらに収まるものをつくるときと、気持ちや行程は違いますか? 「大きな作品は、より一層体力と気力を使いますね。とくに重たいガラス生地に細かい紋様を施すときは、いつもと削り方から変わります。小さなグラスを削るときは、グラインダーにガラスを押し付けるように削り込みますが、大きなガラス生地の場合は、重いので支える力を弱めるだけで削れてしまいます。だから力加減が重要で、技術も問われますが、体力も同じくらい必要です。細かい紋様を1本1本、同じ深さで均一に削っていくことは技術のいることですが、大きく重たくなるほどより高度なテクニックが求められます」 ——“作品”を通して伝えたいこととは。 「小さなグラスでは見ることのできない江戸切子の一面を垣間見ることができるので、大物作品には一見の価値があると思います。また、大物作品は作者の意図がより反映されていると思うので、じっくり細部まで鑑賞するとおもしろいですよ」 ——今後、大物作品で挑戦してみたいことを聞かせてください。 「江戸切子は、多くの職人さんの手によって、たくさんの新しい表現が生まれてきました。でも、まだ誰も見たことのない江戸切子が、きっとあるはず。そんな作品を、いつか制作できたらと思います。これからも新たな表現を模索しつつ、ひとつのスタイルにこだわらず、さまざまな試みをして見る方々にもたのしんでいただけるような作品をつくっていきたいですね」 小林昂平 KOHEI KOBAYASHI1987年、東京都生まれ。2010年より「江戸切子 小林」3代目である父の淑郎に師事。日々の仕事と作品づくりを並行し、さまざまな賞を受賞する一方、2015年には自社ブランド「tokoba」を設立。ジュエリー販売も開始し、これまで江戸切子に触れたことのない人たちからも注目を集める。※この記事は2023年に執筆されたものです。終売している商品もございます。お取り扱いについてはお問い合わせください。
Kirikoメルマガ 注ぐと、桜が咲くグラス 2026年3月16日 桜の開花予想が気になり始める季節になりました。人混みは苦手だけれど、やっぱり目を奪われる桜。上野に住んでいた頃は、この時期毎日のように桜の木の下で楽しそうな人たちの間をぬって歩いていました。椎名切子商品一覧 砂切子 サクラサク ~舞う-mau~(金赤×ライトブルー)¥30,800 砂切子 月夜桜(プラセオ×金赤)¥36,300 椎名切子さんの切子は、水を注ぐと底面に彫られた桜が側面に映り込むという、楽しい仕掛けのある江戸切子です。底面の桜模様はサンドブラストによるもの。細かくかわいらしい桜の表現は、サンドブラストの高い技術があってこそ生まれます。 そして、江戸切子の技法の一つである「平切子」の美しさも、椎名切子さんの大きな特徴です。平切子は、グラスの表面を平らにカットする技法。その削られた部分が、グラスに桜が咲くためのキャンバスのような役目をしています。 お世話になった方へのお礼や、新しい生活が始まる方へのギフトにぴったりな、華やかで明るい江戸切子。注ぐと花開くので、ついもう一杯と注いでしまう。そんな楽しい時間も一緒にプレゼントできます。 昼間に見る、ふんわりとしたピンク色の桜もかわいいのですが、少し肌寒い夜に見る白っぽい桜も好きです。帰り道、少し遠回りをしてのんびり眺めるくらいのお花見がいいかなと考えながら、今年も桜の季節を楽しみにしています。 文:山本麻以 写真:佐野洋光 この記事は2026年3月13日に配信されたメルマガの再掲載となります。商品のお取り扱いや価格が変更になっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
Kirikoつくり手 Object Stories — 細小路 圭「花と蝶」 2025年9月24日 江戸切子は、一つひとつ、職人の手により生み出されます。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品や、作品づくりへの想いを伺います。
Kirikoつくり手 Object Stories — 細小路 圭「菊唐草水指」 2025年9月24日 サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品やオーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどのような存在なのでしょう。ここでは、一点ものの“作品”に向き合う職人に、作品や、作品づくりへの想いを伺います。
Kiriko あるがままのきらめき − 透きガラスの切子 2025年9月24日 切子のルーツ 切子に使われているガラス素材は、大きく分けて2種類あります。無色透明な「透き(すき)ガラス」と、外側に色付きガラス、内側に透明なガラスの二重構造になっている「色被せ(いろきせ)ガラス」です。今でこそ、日本では「切子といえば色被せガラス」という印象がありますが、そのルーツは透きガラスにあります。 もっと読む 「切子の素材 − 透きガラスと色被せガラス」の記事へ 透きガラスならではの美しさ カット面に受ける光の屈折によりきらめく、透きガラスの切子。そこには、無色透明ならではのピュアな美しさがあります。ここからは、室町硝子工芸でラインナップしている透きガラスの「江戸切子」をご紹介します。 * * * 繊細さと大胆さが同居八角籠目文様 オールド 玻璃 清涼な川の流れを思わせるカットと、繊細な文様が刻まれたオールドグラス。流れるような線と、規則正しく八角形が並ぶ「江戸切子」の代表的文様「八角籠目(はっかくかごめ)」を組み合わせています。 考案したのは、若手職人も多い「ミツワ硝子工房」に所属する、日本の伝統工芸士・石塚春樹さんです。きらきら、まばゆい輝きが溢れる、細かく刻まれた八角籠目。石塚さんによるカットは、手仕事で施すことのできるギリギリの細やかさです。さらにそこへ、波打つような力強いカットも施すことで、大胆で華やかな印象に。見る角度により多彩な姿を楽しめる、このグラス。手に取ると、きっとくるくる回し、さまざまな角度からきらめきを味わいたくなることでしょう。 モダンな組み合わせ亀甲魚子文様 オールド 玻璃六角形の「亀甲(きっこう)」文様をメインに、底面近くには丸い「魚子(ななこ)」文様を施したオールドグラス。手がけたのは「ミツワ硝子工房」に所属する、日本の伝統工芸士・石塚春樹さんです。 江戸切子で用いられる2つの代表的文様を、規則正しくカットし、組み合わせることで、まるで幾何学モチーフのよう。どこかモダンな印象に仕上がっています。このグラスは、全体に同じ文様を刻むことで、見る人の視線が分散。カットの美しさもちろん、飲み物などグラスの中身の見え方にも目がいく面白さがあります。飾って楽しむもよし、飲みながらじっくり眺めるもよし。他にありそうでない、シンプルながらも個性的なグラスです。 シンプルにきらめきを味わう菊つなぎ天開オールドグラス100年近く続く江戸切子工房「小林硝子工芸所」の3代目・小林淑郎(よしろう)さんが手がけた、このグラス。ぐるりと施されているのは、江戸切子の代表的文様である「菊繋ぎ(きくつなぎ)」です。 直線を交差させていく菊繋ぎを、非常に細かく刻むことで、きらきらと華やかな輝きがこぼれ落ちます。また、グラスの内側を覗き込むと、底面にも菊繋ぎが丁寧にカット。飲み物を注いだり、口にしたりするときにも、その仕事の美しさを感じられます。定番のオールドグラス。しかも、シンプルな透きグラスに、規則正しく代表的文様を施しているからこそ、確かな仕事が伝わる作品です。 * * *いかがでしたか? ひと口に「透きガラス」と言っても、デザインや刻まれる代表的文様で、随分印象が変わります。また、無色透明だからこそ、細やかな仕事が光り輝くという魅力も。※この記事は2021年に執筆されたものです。終売している商品もございます。お取り扱いについてはお問い合わせください。
Kiriko 江戸切子の技を未来へ紡ぐワイングラス「SUI-REN」 2025年9月18日 一つひとつ、職人の手による美しいカットが施された唯一無二のグラスで、好きなお酒を味わう至福のひと時にぴったりのワイングラス「SUI-REN(スイレン)」が「室町硝子工芸」をご紹介します。 そもそも、室町硝子工芸は、江戸切子の魅力を伝えたい。そして、その熟練の技や丁寧な仕事をこれからも繋げていきたいと、日本の職人の作品をご紹介しています。 お客さまから「家でよくワインを飲むから、切子のワイングラスがあったら欲しい」「贈り物をする相手がワイン好きで……」というお声をいただき、このグラスを形にするに至りました。 グラスの形は3種類。左から「ブルゴーニュ」(価格¥35,000(税込¥38,500))「スパークリング」(価格¥35,000(税込¥38,500))「ボルドー」(価格¥35,000(税込¥38,500))。こちらのプレートデザインは「Kikutsunagi(きくつなぎ)」です。 江戸切子らしさと機能性の両立 目指したのは、赤・白などのワインの色や香り、味をたのしむというワイングラス本来の体験を残しながら、江戸切子の華やかなカットもたのしめる意匠です。ワイングラスとしての機能性と、江戸切子ならではのきらびやかさ。これらを両立したモダンなワイングラス・シャンパングラスは、まだこの世にありませんでした。 「SUI-REN」はプレート部分のデザインを2種類ご用意しています。奥は、江戸切子の代表的伝統文様「菊繋ぎ」を施した「Kikutsunagi(きくつなぎ)」。手前は、代表的伝統文様の一つから着想を得たオリジナルデザイン「Nozomi(のぞみ)」です。 まず、グラスに華やかなカットを実現するために、施すカップ部分のカットの目の大きさを微調整する必要がありました。この目が細かすぎると、立体感が出ず、のっぺりとした印象に。するとたちまち、華やかさに欠けるのです。反対に、目が大きすぎると、立体感は出るものの、切子のきめ細やかな輝きが失われてしまいます。まさに絶妙なバランスが問われ、試行錯誤を繰り返しました。 機能性でいえば、口をつける部分(リム)とドリンクを注ぐカップ部分の多くには、あえてカットを施していません。これは、ガラス本来の透明な部分を多く残すことで、注がれたワインの味わいや色をたのしむというワイングラス本来の機能性を残すため。さらに、フット・プレート部分にもカットを施しました。これにより、機能性はそのままに、グラス全体へ華やかな印象を与えています。 熟練の技により実現した意匠 そうして仕上がった、このワイングラス。カットを施す職人曰く、通常より技術や手間が必要だといいます。 たとえば、ワイングラス特有の湾曲したガラス面へのカット。均等に美しくカットすることが、通常のオールドグラスへのカットよりも技術を要するのだとか。また、台座(プレート)の「Kikutsunagi」の部分は、カットする前に引く基準線(割出し)が、通常使用する専用の機械が使えません。そのため、基準線を引く作業は全て手で行ないます。 これらの理由から、当初は職人に渋い顔をされました。しかし、なんとしても、すばらしい職人技を生かしたワイングラスをつくりたい。そして、その技をより多くの人に知ってもらい、未来に紡いでいきたい。そんな私たちの想いを汲んでくれた、熟練の工房と職人により具現化しました。 贈り物が、日本の伝統工芸の継承に繋がる 相手の顔を思い浮かべながら選ぶ、結婚祝いや還暦祝いなど。趣味趣向を知っている大切な人への贈り物はとくに、相手が使ってくれるか。また、使いやすいかなども気になるポイントです。 このワイングラスは、好みや性別、年齢を問わず使いやすく、食器としてさまざまな空間になじむように、あえて透明のガラスを選んでいます。また、施した江戸切子の伝統文様も、シンプルなものにしました。しかし、細やかにカットすることで、独特のきらめきを放ち、華もあります。ペアグラスでのご用意もありますので、記念品・ギフトとしてお選びいただけます。また、ワインだけではなく、冷酒・日本酒を楽しむのもおすすめしております。 使いやすく、ギフトに贈りやすい。このワイングラスには、最初にお伝えした、江戸切子の魅力を伝えたい。そして、その技や丁寧な仕事をこれからも繋げていきたいという、室町硝子工芸の想いが込められています。 そもそも、このワイングラスだけでなく、ほかの江戸切子も、求めるお客さまが増えれば増えるほど職人の力が必要になります。つまり、職人の仕事や雇用が生まれ、業界が活気づくのです。 多くの製品の中から、何を選ぶのか。日々の選択が、日本の伝統工芸の未来に繋がる。そんな目線で、どうぞこのワイングラスを手にとってみてください。日々のシーンに自然になじみながら、職人の手により生み出された江戸から続く熟練の技をおたのしみいただけるはずです。 そうして、お客さまがたのしんでくださることが、職人への支援と、伝統文化を繋げることにほかなりません。 江戸切子のワイングラス「SUI-REN」の製品一覧ページへ ※この記事は2021年執筆の記事となります。 江戸切子のワイングラス「SUI-REN」 SUI-REN Kikutsunagi ボルドー SUI-REN Nozomi ボルドー